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2005年05月19日
アレのつづき
髪を切った。
俺の漆黒の髪は伸びに伸び、
まるであだち充漫画の登場人物のように重苦しい様相であったので、
どれ、ひとつさっぱりしようかと思いたち、行きつけのメキシカン美容院へ行って来た。
ここは南米人コミュニティの中にある店なので、日本人である俺は大変珍しいらしく、
いつもちやほやされる。というか、好奇の目でみられる。店員にも客にも。
今回はウケをとろうと思ってスペイン語でLos Bitle(The Beatles)と書いてあるTシャツをわざわざ着て行った。
しかし、誰からもつっこまれず、さびしい思いをした。もっとちやほやしろよ、この野郎。
俺を担当した新顔のお兄ちゃんはまったく英語が話せなかった。
店の女主人が通訳してくれたものの、お兄ちゃんはどうも不安そうなまま髪を切り出した。
結果、まったく予期せぬことに、俺の頭は角刈りになった。
ラブコメから一転、任侠っぽく仕上がった。
まあ、これはこれで男らしくていいんじゃないの、と思ってうちに帰ると、
同居人に笑われた。いつもならゲラゲラーと、そういう笑い方をしてくれるのだが、
今回は、なんていうの、こう、ニタニターっとした笑い方で、
「やっばあ」という心の声が聞えてきそうな、そんなかんじであった。
俺は平静を取り繕ったが、その実、たいへんなショックを受けていた。
ちかいうち俺に会う人は注意深く俺に接して欲しいと思う。
もし俺を傷つけたそのときは、背中の唐獅子牡丹が黙っちゃないぜ。
とめてくれるなおっかさん、って、そういうことだぜ。
さて、今日は書く。アレのつづきを絶対書く。
毎回書こうとは思ってるのだがどうも気が乗らなくて、
別のことを書いてるうちにきまって無駄話がすぎて長くなり、
次回にまわすという羽目になる。
でも今日の俺は違うぜ。書く。なにがなんでも書く。
しかし、最初にことわっておきますけどね、今日の俺はかなり期待薄。
そもそも「アレ」呼ばわりしてる時点であの話にまったく愛着もやる気もないことがわかるだろう。
正直、億劫である。くだらないと自分でも思っているし、とんでもない話を書き始めてしまったと思う。
でも俺は書く。逃げない。絶対書く。「でもやるんだよ!」の精神だ。
(懐かしいね、このフレーズ)
以下、アレの回想のつづき。
「おいおい、おまえらのせいで俺のアニエスのシャツが台無しだよ」
呆然と立ち尽くす二人。さらに俺は空手チョップでさっきまで腰掛けていたイームズの椅子を叩き割る。
小沢があわてて土下座する。そしてこう言う。
「へへえ、恐れ入谷の鬼子母神でございます」。
俺の怒りはおさまらない。
「迷惑なんだよお前ら。そもそも誰のおかげでここまできたと思ってるんだ!」
小山田も土下座する。そしてこう言う。
「ユージンさんのおかげです。あたり前田のクラッカーでございます」
騒ぎを聞きつけたスタッフたちが楽屋に押し寄せる。
「ユージンさん、どうしたました?」
「なんでもないよ。ちょっと、この二人に説教たれてたところだ。いつものことさ」
やれやれ、といったかんじでスタッフたちが小沢と小山田をあきれた顔でみている。
「お前らよお、今度俺を怒らせたらバンド解散だって前に言ったろ!」俺が叫ぶ。
小沢が謝る。「すんません、ユージンさん。それだけは勘弁してつかあさい」
小山田も謝る。「すんません、おれ、ユージンさんなしじゃやっていけないっす」
気がつけばスタッフ全員もまた土下座している。
「ユージンさん、俺たちからもお願いするっす。ユージンさんは日本音楽界の宝です」
ここまで言われて、バンド解散を強行するほど俺も鬼じゃない。
「そうかそうか。わかったよ。バンド解散は撤回する。でももう二度と俺を怒らせないと約束してくれ」
二人が泣きつく。
「ユージンさん、あんた、本当に寛大な人だ」
「ユージンさん、あんた、モーレツにビューティフルだ」
「うんうん。そうかそうか」俺、二人をきつく抱きしめる。
スタッフたちが拍手する。泣いてるやつもいる。
ここで俺、しんみりした空気を払拭したく、とっておきのギャグを放つ。
「そうかそうかの草加煎餅、てかっ。ガッハッハッハ」
スタッフ全員爆笑。しかし、小沢と小山田びいびい泣くだけで、まったく笑わず。
俺、気分を害する。ここで当時中学生の俺、中学男子特有の気まぐれが炸裂。
「わりい。やっぱやめた。今日でこのバンドおしまい」
「えー。そんなー」小沢と小山田が同時に嘆きの声をあげる。
「おうおう、文句あんのか、あんちゃんたちよお。二度と口のきけない体にしてやろうか」
指の関節をパキパキと鳴らす。号泣する二人。肩を落とすスタッフたち。
「そんなにバンド続けたきゃなあ、二人仲良く墓場でやりな!」
そういって、俺は硬く握り締めた拳をふりあげる。
「ひゃああああ。殺されるうううう」
そう叫びながら、小沢と小山田、一目散に楽屋から飛び出していく。
これにてバンド解散。
俺、父親に電話して車で迎えに来てもらう。
車中、楽屋での出来事を父親に告げる。
「お父さん、俺、今日でバンドやめたよ」
「そうか…じゃあこれからすこし暇になっちまうな…」父親の眼鏡がキラリと光る。
俺、そのまま父親に河合塾のグリーンコースに放り込まれる。
これで俺の音楽活動が完全に停止。
おわり。
で、以上の簡単な解散劇からどうして「渡辺満理奈のとりあい」なんて根も葉もない噂が浮上したかというと、なにせ、もう10何年も昔のことですから、当時はまだ活版印刷も発明されてない時代で、さらには、まだ庶民は文字の読み書きも満足にできないなんて世情でしたから、これらのやりとりが口頭伝承で庶民の間に伝わるうちに、俺が最後に二人に言い放った言葉「墓場でやりな!」がどういうわけか「わたなべまりな」に変わってしまい、間違った解釈でもって、妙な噂が広く世間に流布してしまったと、こういうわけだったんですね。
はい、これにて、おしまいでーす。どーもご精読ありがとうございましたー。
またねー。じゃーねー。
投稿者 hospital : 2005年05月19日 23:17
